ヒストグラム
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警視庁立川署の友野秀和巡査長(40)が、飲食店従業員の佐藤陽子さん(32)を、貸与されている拳銃で射殺し、自殺した事件は、トップの矢代隆義警視総監に対する懲戒処分で、警察としてのけじめをつけることになった。
先月20日の事件発生から1カ月、警視庁も友野巡査長を容疑者死亡で書類送検し、捜査は事実上の終止符を打つが、公務中の拳銃使用で今後に重い課題を残した。
■直接動機は未解明
事件が起きたのは先月20日午後10時ごろ。
警視庁は当初、玄関に友野巡査長の靴が並べられていたことなどから「無理やり侵入した形跡はない」と判断、「交際のもつれからの無理心中」と見ていた。
ところが、その後の捜査で巡査長がストーカー行為を繰り返していた疑いが浮上、留守中に自宅に侵入されたと疑った佐藤さんが、事件直前に巡査長に「訴える」とメールを送っていたことや、巡査長が佐藤さんの部屋の合鍵を所持していたことも判明した。
約1カ月にわたる捜査で、同庁は「2人が一時は親しい関係にあったものの、友野巡査長が一方的に待ち伏せなどを行って拒絶されるようになり、殺害に及んだ」と判断した。
だが、巡査長が佐藤さんの部屋の合鍵をどのように入手したかは分からないまま。
室内から巡査長の指紋は検出されず無断侵入を繰り返していたという証拠も見つからなかった。
佐藤さんから最後に送られた「指紋を採れば分かるよね」とのメールも未開封で巡査長が見ていなかったことも分かり、最終的に事件を引き起こした動機は解明できなかった。
■批判で条例改正へ
死亡退職扱いとなる友野巡査長の両親には、退職金として自己退職時の5割増となる約1200万円が支払われる予定だった。
都条例には職員が懲戒処分を受けたり、起訴されて禁固以上の刑が確定した場合は退職金を支給しないとの規定があるが、死亡したケースまでを想定していなかったためだ。
巡査長の遺族は、退職金を被害者の遺族に手渡すことを表明していたが、警視庁には「税金で賠償するのはおかしい」などの批判が200件以上寄せられた。
巡査長の両親は今月1日になって退職金の受領を正式に辞退。東京都は、重大な不祥事を起こして死亡した職員には退職金を支払わないよう条例改正を行うことにしている。
■身上把握に限界
友野巡査長は勤務中にたびたび私有の携帯電話を使って佐藤さんにメールを送っていた。
地域警察官の私有携帯使用を認めていなかった警視庁地域部の指導は形がい化していた。
同庁は事件後の緊急対策の一環として、私有携帯の使用を禁止し、やむを得ない場合は所属長の承認を得るよう通知を出した。
今後、書面による承認を求めるなど厳格な手続きを定める予定だ。
無線が通じない「不感地帯」で勤務する警察官のために公用の携帯電話を支給することなども検討する。
また、事件では精神状態の把握も課題として浮き彫りになった。
警察官のメンタルヘルスのチェックを定期的に実施しているが、今回は職場での部下の身上把握がずさんだった。
同庁は上司が4万人近い警部補以下の部下を対象とした緊急面接も実施、担当する中間管理職の拡充も検討しているが、同庁幹部は「完璧な身上把握は難しい」と打ち明けた。
■5秒以上頭下げ
「死亡された女性のご冥福を心からお祈り申し上げるとともに、ご遺族、都民、国民の皆様に対して改めて深くおわび申し上げる」、警視庁で記者会見した矢代警視総監はそう謝罪し、同席した幹部とともに、5秒以上にわたって頭を下げた。
不祥事を受けて警視総監が自ら記者会見に臨むのは極めて異例だ。
矢代総監は冒頭、友野秀和巡査長を容疑者死亡の殺人と銃刀法違反容疑で書類送検し、自身や同署長らが懲戒処分となったことを説明、「制服警察官が勤務時間中に拳銃を使用して女性を殺害するという過去に類をみない凶悪な事件であり、全く弁解の余地はない」と述べた。
総監就任2週間で発生した事件で、自らが責任を問われたことについては「処分を厳粛に受け止め、改めて首都・東京の治安を守る最高責任者としての重責を深く再認識し、信頼回復に向けて職務にまい進する」と強調した。
会見では、高石和夫副総監が19日に女性の遺族に面会し、再発防止を約束するとともに改めて謝罪したことも明らかにされた。
◇処分は甘過ぎる ※ジャーナリストの大谷昭宏さんの話
警察官が拳銃を使用し女性を殺害した事件の重大さと、ストーカー行為を放置した管理責任、また当初「無理心中」と被害者に落ち度があるような発表をしたことなどを考えると、処分は甘過ぎる。
戒告などの処分は国民には程度が分かりにくい。
その意味でも、署長は懲戒免職、総監は停職などにすべきだった。
◇着任早々で妥当 ※元警視庁捜査1課長の田宮栄一さんの話
矢代総監が問われたのは監督責任で、着任間もない事件だったことを考慮すると、戒告は妥当といえる。
着任半年や1年後の事件なら、処分もより重くなり、引責辞任も免れなかっただろう。
警察官にとっては懲戒を受けたという事実自体が重い。
これで一件落着とせず、警察組織の一層の引き締めに努めなければならない。
それが処分の意味するところだ。